無題

2008年11月25日 (火)

無題4

優奈と祐樹が始めてあった日は、中学校の入学式、桜も吹雪の吹雪で三秒も口をあけてはなしていたら花びらが入ってしまいそうな風の少し強い日だった。

桜は満開で、空も雲ひとつない快晴だったが、別にドラマチックな出会いをしたわけではない。

優奈が友香と話していたら、視線を感じたので振り返ると、そこに祐樹がいた。それだけのことだ。

だが、それだけのことが、その後三回程度続いた。

そして入学式も終わり、四月半ばになって、優奈が美術部に入部したら、そこに祐樹がいたのだ。

今回は、正面で目があう。

「君も、美術部に入部するの?」

「うん。まあ。よろしく。」

「うん。」

祐樹はそれだけの会話を交わすと、すぐにまた作業に没頭した。

その日は、結局優奈は、祐樹の名前すら知ることが出来なかった。

翌日の放課後、また美術室にいると、祐樹は既に絵の具を用意して、絵に色をのせていた。

その顔は、真剣そのもので、絵しか見えないというかんじだった。優奈も、なんとなく声をかけるタイミングを見失ってしまった。

優奈は自分も作業にとりかかろうと、描きかけの画用紙に向かったが妙に祐樹のほうがきになって、そわそわしてしまう。

こっそり、後ろから覗いてみるとそれは水彩で描かれた鮮やかな花畑だった。

どの花も小さいながら、忠実に再現されていて、優奈は思わず「綺麗」と呟いてしまう。

祐樹は振り返り、優奈の目をじっとみて、その後ふわっと笑った。

「ありがとう。」

後から思えば、あの笑顔は特に印象に残るものだったと思う。

「お世辞じゃなくて、本当に綺麗だよ。えっと。」

この時点で優奈は、祐樹の名前をまだ知らないことにやっと気付いた。

「祐樹。木村祐樹ってよんで。君は、桜田さん、だっけ?」

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2008年11月22日 (土)

無題1

学校が夏休みで、授業がない日の朝に電話はなった。まだ始まったばかりだ。

壁にかけてある時計を見ると、針は八時十二分をさしている。

桜田優奈は、直感でその電話がいやな知らせだと悟ったが、取らないわけにはいかないので渋々電話の受話器を上げた。

ガチャリ、と音がやけに部屋に響く。

「もしもし。」

いつもより、数段低い声が出る。

「もしもし、桜田さんのお宅ですか。」

電話の向こう側からは女の人の声がする。年齢は分からないが、だいたい三十代から四十代ぐらいのひとだと目星をつける。落ち着いた喋り方だ。

「そうですが。どちらさまですか。」

どうせ、クラスメイトのお母さんかセールス、または父母の仕事仲間だろう。

あいにく父母は既に、仕事に出かけてしまっている。

「木村というものですが、優奈さんはいますか。」

その質問に、優奈は虚をつかれた。自分の名前がでるとは思っていなかったからだ。

「私、ですが。」

戸惑いつつも、名乗りでる。頭の中では、木村という知り合いはいたかな。と頭を回転させる。だがそんな知り合いはいるはずがない。そこらへんの女子中学生に、年配の女性の知り合いはいない。来年、受験だし家庭教師の勧誘、というのも考えられる。

「私、木村祐樹の母です。いつも息子がお世話になってました。」

祐樹、というのは優奈の同級生だった。一学期中は二回席替えをしたのだが、その二回とも隣同士になった。

「ああ。木村君の。どうかされたんですか?」

夏休みだし家出でもして、探しているかもしれない。という考えが頭をよぎった。

だが、見当違いだ。優奈と祐樹は別に、学校の中ではないが学校外の付き合いはほとんどない。

電話の向こうで、唾をのむ音が聞こえた。それは、なにかを覚悟しているようにもきこえる。

「あのね。」

「はい。」

「祐樹が死んだの。交通事故でね。」

そういって、電話の向こう側の女性は、小さく泣き出した。優奈はどうしていいかわからなくってただただ、電話の前で呆然としていた。

ユウキガシンダノ。コウツウジコデネ。

先ほどの声が、頭の中でこだましていた。

シンダという意味がそのときは、よく知っている言葉なのに、その意味に結びつかなかった。

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